神出鬼没の男キング・マクレインがまたしても姿を消した。ビッグ・ブラック河の土手に、帽子をぽつんと残して―。「黄金の林檎」を求めてさすらうキング、妻スノーディと双子の息子、町はずれの森でキングと交わる人妻たち、そしてその落とし子…。20世紀初頭から40年、ミシシッピ州の田舎町モルガナを舞台に繰りひろげられる奇妙な生の営み。現代アメリカ屈指の物語作家による南部文学の傑作。 『黄金の林檎』では二十世紀初頭から ,第二次大戦後に至る迄,四十年以上 の歳月が流れている。 その聞に強まりつつあった南部近代化の波は, モノレ ガナにも押し寄せ,作品を締めくくる uT he Wande rers" で明らさまな形を とる。町には顔を合せても挨拶する事もない新顔が増え,彼らはかつては狩 猟や散策の場だった「モノレガンの森Jを伐採し,トラックに木材を満載し,騒 々しく我物顔に通り過ぎる。かつて,ヴァージーがエクハノレトからピアノを 習ったマクレイン家は,あずま家と煙突を除けば既に焼失し,モリソン家は部屋を小さく仕切られ,彼らの下宿屋になり果て,彼女白身も四十を過ぎた 今,彼らと同じ職場で働き ,生活の糧を得ている。「新しい人々Jの勃興とは 対照的に,長い間町の中核的存在だった人々は, リッズ ィーやキングの老い が物語るように少しづっ,だが確実に姿を消しつつある。外界から異文化が 町に入り ,今迄のそれにとって代りつつあるのと同時に,世代の交代も始ま っているのだ。ヴァージーが,人々の生活態度には反発しつつも,そ乙にい るというだけで安らぎを得られたモノレガナの臼然も,町並も都r!f化の波の中 で過去の物となりつつある。尽を失った今,乙のような変化に目をつぶろう とする人々とは反対に,モノレガナの現実を直視するヴァ ージー( “Th eWander ers" は主に彼女の芯識を通して描かれている)は,自分 Il 身の生活を求 め町を去る。 w黄金の林檎』は彼女が反発しつつも愛したモノレガナへの別れ の物語なのだ。
440頁 晶文社
750円